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未来
湊かなえ
双葉社
2020-06-08



Tairaオススメ度:★★★★☆
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『告白』での衝撃のデビューから十年。
作品の多くが人の悪意や歪みをえぐり出すようなものだったため、湊かなえは〈イヤミスの女王〉と呼ばれてきた。
だが決して、悪意や歪みそのものをテーマにしてきたわけではない。
むしろ湊かなえがここまで描いてきたのは〈関係〉だ。
親と子の、家族の、学校や職場や地域での、人と人の関係。
悪意や歪みはその関係の中で生まれ、関係を蝕(むしば)んでいくものとして存在する。
その中で人はなぜ壊れ、何を求めるのか。
それこそが湊作品の根幹にある。
多くの作品が複数の視点で構成され、人間関係のありようが客観的に描かれること、最後に救済が用意されている作品が少なくないことなどが、その証拠だ。
新刊『未来』もまた、関係の中で足掻(あが)き、戦う人々の物語である。
父を亡くしたばかりの十歳の少女・章子のもとに、三十歳の章子が書いたという〈未来からの手紙〉が届く。
その手紙に励まされた十歳の章子は〈大人章子〉に向けての返事という形で日々の日記を書き始める。
意地悪なクラスメート、無気力だったママの変化、担任の先生の言葉……
辛い出来事があっても、〈未来からの手紙〉に記されていた〈あなたの未来は、希望に満ちた、温かいもの〉という言葉を支えに頑張ってきた章子。
しかし、中学に入った彼女を待っていたのは、到底この先に幸せがあるとは思えない事態だった……。
相次ぐ災厄が、章子の心を冒していく。
私は幸せになるんじゃなかったのか、という悲鳴が聞こえるようだ。
その描写はさすがだが、真骨頂は語り手が変わってからにある。
描かれているのは、大人と子どもの〈関係〉だ。
章子をはじめ本書に登場する子どもたちは皆、大人によって苦しめられている。
子どもは大人の庇護のもとでしか生きられないのに、自分の都合で子どもを振り回す身勝手な大人たち。
だがその一方で、子どもを救えるのもまた大人なのだと、本書は伝えている。
子どもが未来を信じられるように、大人が手を差し伸べねばならないのだと。
そんな大人の存在が子どもを強くし、強くなれた子どもは大人になって、きっと次の世代を助けていく。
湊かなえが本書に託したのは、大人と子どもの、あるべき関係の姿なのだ。
だからこの物語の読後感はとても温かい。
人と人の間に生まれるものを見つめ続けてきた著者だからこそ描ける、希望の物語。
そろそろ彼女からイヤミスの看板をはずす頃合かもしれない。
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とても苦しい気持ちになる作品だった。

大人と子供、男性と女性等、人と人との関係性に苦しめられつつもそこから逃れることができない苦しさが、淡々とそして現実的に描かれていた。

果たして救いはあるのか、そもそも救いとは何だろうか。そもそも人生に意味はあるのだろうか。

悲観的ではなく楽観的でもない。ロマンチックではなくドラマチックでもない。
ただ生きる、というの物語を静かに見させられたような、そんな複雑な読後感だった。

この作品は、イヤミスというよりも、むしろ現実にある理不尽さを突きつけられたような、より絶望が募る作品だと思う。