悼む人悼む人
著者:天童 荒太
販売元:文藝春秋
発売日:2008-11-27
おすすめ度:4.0
クチコミを見る


Tairaオススメ度:★★★★★

----------
全国を放浪し、死者を悼む旅を続ける坂築静人。
彼を巡り、夫を殺した女、 人間不信の雑誌記者、末期癌の母らのドラマが繰り広げられる。

聖者なのか、偽善者か?「悼む人」は誰ですか。
七年の歳月を費やした著者の最高到達点!
善と悪、生と死が交錯する至高の愛の物語。
----------

とても面白い小説でした。

物語の内容を、軽いか重いかで分けるとすれば、重い内容であることに間違いはありませんが、その分真摯に語りかけてくる人間の生と死という深いテーマを、僕なりに真剣に受け止めることができたし、これからの僕に与えられている生と死について、少しですが正面から向かい合うことができたような気がします。

物語では、死というものを誰しもに訪れる避けられないものとして、暗く陰鬱に描く訳でもなく明るく思想的に描く訳でもなく、ただそこにある死を通し、亡くなった人がどのような生を過ごしていたのかということが静かにそして淡々と描かれています。
それにより、僕はむしろ生というものを強烈に意識させられました。

主人公である坂築静人は、亡くなった方が誰を愛し誰に愛され誰に感謝されていたのかということを常に問います。
人は生きていく上で大なり小なり人と繋がっているものだし、きっとその繋がりが愛であり感謝であれば素晴らしいものであろうと思います。
なぜ人が死んだのかではなく、誰の心に死んだ人の生が生き続けるか、物語では繰り返し繰り返しこのことが語られます。

人と人が愛と感謝で繋がっている。
僕は、この陳腐で綺麗ごと過ぎる言葉を、いつの間にか絵空事としてしか認識していないことに、この本を読んで気付かされました。

いろいろなことをそっと静かに提起している物語であったと思います。

久しぶりに良い本に出会えました。
今回は文句なしの星5つです。