GOTH―リストカット事件GOTH―リストカット事件
著者:乙一
販売元:角川書店
発売日:2002-07
おすすめ度:4.5
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Tairaオススメ度:★★★★★

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森野が拾ってきたのは、連続殺人鬼の日記だった。
学校の図書館で僕らは、次の土曜日の午後、まだ発見されていない被害者の死体を見物に行くことを決めた…。
触れれば切れるようなセンシティヴ・ミステリー。
第3回本格ミステリ大賞受賞作
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この本は、これまでに何度か手に取ったものの、僕の好みじゃないかなって、なぜだか食わず嫌いしていたのですが、まあものは試しと読んでみたところ、驚きました、かなり面白かったです。
好みじゃないどころか、僕の大好きなタイプの小説でした。

この小説は、「暗黒系」「リストカット事件」「犬」「記憶」「土」「声」という6つの編から構成されています。
それぞれの編の内容は以下の通りです。(Wikipediaより抜粋)

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「暗黒系 Goth」
最近起こっている連続殺人事件に関係すると思われる手帳を拾った森野夜は「僕」にそれを見せる。
そこにはまだ見つかっていない死体の放置場所が書かれており、二人は死体を見つけ出すことにした。

「リストカット事件 Wristcut」
動物、人間の老若男女を問わず手だけを切り落とし持ち去るという事件が起こっていた。
その犯人を特定することができた「僕」は、ある計画を実行することに。

「犬 Dog」
町内で犬の連続連れ去り事件が発生。
「僕」は犯人の犯行現場をつきとめる。

「記憶 Twins」
「僕」と森野夜は、彼女の寝不足を治すための紐を買いに行った帰り道に、彼女は寝不足の原因である過去の事件を話しだした。

「土 Grave」
人を生きたまま棺に入れ、埋葬することにとりつかれた男・佐伯。
彼は第二の犠牲者を出そうとしていた。

「声 Voice」
廃病棟で起こった女性惨殺事件。
その被害者の妹は、その事件の犯人だと名乗る少年からひとつのカセットテープを渡される。
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上記のように6編はそれぞれ別の物語が語られていますが、全編を通じて二人の主人公を軸とした物語展開となっているため、長編小説を読んだ後のような充足感が得られました。

また主人公の他に登場する人物や舞台設定が必要最小限にコンパクトにまとめられているので、いくつかの編でどんでん返し的な結末が描かれるのですが、その仕掛けが作者の独りよがりになることなく、とても理解しやすくて非常に面白く読み終えることができました。
しかもどんでん返しにつきものの伏線の配し方も全く奇をてらうことなくあくまでも自然に丁寧に配されていて、結末を知った時には「ああなるほどな」と爽快感さえ感じることができました。

6編の並びについても、最後の編の結末を知りはじめて編の並びにも意味があったんだということを知ることになります。
主人公の名前を記さない文章は、いつか何らかのトリックに繋がるんだろうなと思い読み進めていると『土』という最後から2番目の編の結末でやっと意味をもちます。
素晴らしい展開だと感心していたところ、最後の編『声』でもう一度このトリックを使ったまさかの結末が展開されます。
2度同じようなトリックを使用しているにも関わらず、その結末への話の進め方や伏線の配し方が絶妙なので、驚きは半減されることなくむしろ絶大な効果をもって物語の最後を締めくくっているように思います。

久しぶりにとても面白いミステリー小説に出会えたと思います。
この作者の本をもう少し読んでみたいと思います。

今回は星5つです。