長い腕 (文芸シリーズ)長い腕 (文芸シリーズ)
著者:川崎 草志
販売元:角川書店
発売日:2001-05
おすすめ度:3.5
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Tairaオススメ度:★★★

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島汐路は、職場で同僚の女性二人がビルから転落する死亡事故を偶然目撃し、大きなショックを受ける。
彼女は幼い頃、両親が崖から転落死した事件を目撃し、それがトラウマになっているのだ。
汐路は死亡した女性のことを調べ始めるが、彼女は「ケイジロウ」というキャラクター人形を敬愛していたことがわかる。
その人形は、半年前、汐路の故郷、早瀬で起こった女子中学生の猟銃射殺事件の犯人も鞄につけていたものだった。
妙な共通点に疑問を感じた汐路は、早瀬に戻り、女子中学生の事件の調査をはじめるが、そこには予期せぬ事象が隠されていた…。
第21回横溝正史ミステリ大賞受賞。
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先日の横溝正史ミステリ大賞受賞作「首挽村の殺人-大村 友貴美」がいま一つ面白くなかったため、この賞自体が面白いのか面白くないのかを判断したくて、今回手に取ったこの作品も横溝正史ミステリ大賞受賞作。

先ず結論、一応この横溝正史ミステリ大賞は年度によって『外れ』の年と『やや当り』の年とに分かれるなって思いました。

『やや当り』という表現を使った理由は、今回読んだ「長い腕」もそうですが、以前読んだ「水の時計」も面白い物語ではあるけれど、いま一つ心にグッとくる臨場感に欠けるというか迫力に欠けるというか、ややそんな物足りなさを感じる小説であったため、『当り』というには言い過ぎのような感があるためです。

勿論、この賞の受賞作全てを読んだ訳ではないのでかなり偏った大雑把な感想ではありますが、僕としての正直な感想はこんなところです。

前置きが長くなりましたが、今回読んだ「長い腕」まずまず面白く読めました。

会社の同僚の死亡事故と故郷の殺人事件が意外な点で繋がっているというところにポイントを絞り、その謎解きを行っていく過程でいろいろな人物が登場し、その人々との話を通し次第に犯人像が浮かび上がってくるという、基本的ではありながらも余計な要素を加えていないので物語に入り込み易く、また事件発生から事件解決まで一気に疾走する物語の流れは読んで飽きることなく、最後までとても面白く読み進めることができました。

事件の真相に次第に近づいていく緊張感や犯人を目前にした緊迫感は、まさに手に汗を握る展開で、早く次のページをめくりたいと思わせてくれる面白さがありました。

ただし、読後にスッキリとしない点がいくつかあるのが残念です。

例えば、物語冒頭の事件、主人公を美人にしなければならなかった理由の乏しさ、ケイジロウというキャラクターの必然性、物語の重要なポイントとして描かれている大工と犯人の関係性が分かりにくい点、等々。
また物語の内容とは全く関係ない部分に、作者の趣味がこれでもかと表現されている部分は、物語の流れを止めるというマイナス要素にしかなっていないように思えます。

物語の展開に不必要な要素は割り切って一切描かず、二つの事件の関係性だけに注目した方が、より事件に真実味を持たせるという意味でも良かったのではないかと思います。

偉そうなことばかり書いていますが、あっという間に読破できるテンポ良い文体は、とても僕の好みで、この作者の小説はもっと読みたいなと思いました。

今回は星3つでした。