悪人悪人
著者:吉田 修一
販売元:朝日新聞社
発売日:2007-04-06
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


Tairaオススメ度:★★★★★

----------
保険外交員の女が殺害された。
捜査線上に浮かぶ男。彼と出会ったもう一人の女。
加害者と被害者、それぞれの家族たち。
群像劇は、逃亡劇から純愛劇へ。
なぜ、事件は起きたのか?
なぜ、二人は逃げ続けるのか?
そして、悪人とはいったい誰なのか。
----------

素晴らしい小説でした。

物語のテーマと展開、登場人物の描写と思い、全てが完璧ではないかと、僕は思いました。

話は一人の女性が殺されるというところから始まります。

なぜこの女性は殺されたのか、犯人はなぜ女性を殺そうと思ったのか。
殺された女性の家族が思う犯人像と実際の犯人。
犯人の家族が思う犯人。

殺人事件を物語の起、犯人逮捕を物語の結とした場合、この小説は承と転を深く精緻に描いています。
その中で、犯罪を決して肯定することはないけれど、なぜ犯罪が起こってしまったのかということを複数の登場人物の視点を介し、しっかりと語ってくれます。

現実に多々起こる殺人事件が、果たして全てこのようなドラマを持っているかどうかは僕には分かりませんが、少なくともこの小説に語られる事件は、読んでいる間僕の中に実在していました。

それ位、物語に登場する人物達は、生々しく人間的に描かれていました。

奇をてらう展開もなく、無意味な伏線もない。
ただそこに存在した人間が起こしてしまった事件を少しだけドラマチックに描く。
それだけでこんなにも面白い物語ができてしまうということに感動しました。

直向きな人間とそうでない人間。
どちらが良くてどちらが悪いかという単純なことではないと思いますが、僕は一体どちらだろうと真剣に考えさせられました。

どっちだろう。