夜市夜市
著者:恒川 光太郎
販売元:角川書店
発売日:2005-10-26
おすすめ度:4.0
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Tairaオススメ度:★★★★★

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大学生のいずみは、高校時代の同級生・裕司から「夜市にいかないか」と誘われた。
裕司に連れられて出かけた岬の森では、妖怪たちがさまざまな品物を売る、この世ならぬ不思議な市場が開かれていた。
夜市では望むものが何でも手に入る。
小学生のころに夜市に迷い込んだ裕司は、自分の幼い弟と引き換えに「野球の才能」を買ったのだという。
野球部のヒーローとして成長し、甲子園にも出場した裕司だが、弟を売ったことにずっと罪悪感を抱いていた。
そして今夜、弟を買い戻すために夜市を訪れたというのだが―。
第12回日本ホラー小説大賞受賞作。
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面白いです。この本。

ひっそりとしんしんと綴られる不思議な物語です。
物語では、さも当たり前のように妖怪が登場したり、この世ではない不思議な世界が淡々と語られたりしますが、僕は不思議とその世界観をすんなりと受け入れることができました。

ひょんなことから迷い込んだ”夜市”という不思議な夜店たち。
そこでは何かを取り引きしないと現実の世界には戻れないという不思議な世界。
夜市では何でも切れる刀や何らかの才能等を手に入れることができる。
もちろん人間も商品として扱われている。
お金を持たない兄弟の兄は弟を売ることで野球の才能を手に入れるという取り引きを成立させ現実に戻ることができた。
現実の世界では弟の存在そのものが無かったことになっている。
自分の記憶の中にだけ存在する弟を買い戻すために再び夜市を訪れる兄。

内容を改めて書いてみると何だか滑稽に聞こえなくもない物語ですが、実際には、これらの内容が静かにノスタルジックに描かれていて、読んだ後に不思議と涼しげな気分に浸ることができます。
とても面白い小説でした。

ちなみに、ホラー小説大賞を受賞していると言っても、グロテスクな描写や凄惨な内容が描かれている訳ではありません。
少し静かな気分に浸りたい日にちょうど良い本です。
おすすめです。